花鳥風月~美しい自然の移り変わり~ 豊かな地球の恵みを敏感に感じ、絶妙な香りの配合を表現してきた先人たちの繊細な感性により培われてきた日本の香文化。それは、自然との共生を大切にし、様々なものを調和させ、新しいものを生み出す日本人の美意識そのもの。そんな日本人の美意識をはぐくむ「日本の美しい自然の移り変わり」を、本コラムでお届けします。
秋分の日
今日は、秋分の日。
太陽が真東から昇り、真西に沈み、昼と夜の長さがほぼ等しくなります。この日を境に昼の時間がだんだんと短くなり、秋が深まっていきます。
秋の夜長となり、虫の音が心地よい季節です。
陰と陽のバランス
長雨が続くなか、時にこのこの長雨を憂いながら窓から空を見上げながら、太陽が時には恋しく感じることがあります。ただ一方で、夏の盛りのときは太陽の陽が暑すぎて、涼を求めていた頃を思い出すと・・・・・偏りすぎずちょうど良い頃合い、バランスというのがが、やはり秋であったり、春なのかなと思いを巡らしてしまいます。
バランス・調和。
暑い時(陽)もあれば、寒い時(陰)もある。太陽が燦々と降り注ぎ明るく照らしてくれる(陽)、一方で、太陽が隠れて厚い雲に覆われているとどことなく暗い(陰)。
こうして天気や自然の姿をみていても、あらためて、陰と陽はそれぞれが逆の性質を持ちながらも、二極で一対となり調和を生み出している世の中なのだとあらためて思い知ります。
陰陽思想
『この世のあらゆる事象は、「陰」と「陽」の相反する二つの性質を持ち、両者の調和によって世界が保たれている』という教えである『陰陽思想』。
例えば、寒・暗・女・夜・冬・月・水・地・弱などが『陰』。それに対して、暑・明・男・日(太陽)・夏・火・天・昼・強などが『陽』になります。
これら二つは一見すると、対立しているものにみえますが、昼と夜があって一日となる、男と女があり人間が成立する、というように、“二元共生”“二極調和”の関係にあり、どちらか一方だけで成立したり、どちらかをなくす、ということはできない、相対するものがあっても実はそれが一つであります。
なんか・・・・少し哲学的な表現が続いてしまいましたが、お伝えしたいことはこちら。
「万物負陰而抱陽、沖気以為和」
(万物は陰を負いて陽を抱き、沖気以て和を為す)
(全てのものは陰と陽を背中合わせに抱えあっており、陰と陽を中和させる“気”によって調和を保っている。)
これは、陰陽思想に影響を受けたといわれる老子の言葉。この一言に、上記のことが端的に表現されていると思います。
いろいろと長々と書いてしまいましたが、要は「バランスが大切」であるということ、そして、そこに調和された平和な世界があるということを教えてくれています。
バランスをとる
太陽の陽が昇り、沈み、そして月が昇り夜が訪れる、季節も暑い夏が過ぎ去り、徐々に季節も変化していき、冬の寒い季節が訪れる、というように自然の摂理の中では自ずとこのバランスというのは保たれており、その中で私たちはこうして暮らすことができています。
しかし、こと“自分自身”のこと、特に“心”となるとこのバランスを保つということがとても難しいのではないでしょうか。
心というのは時には荒れ狂う大海原なときもあれば、平穏な湖畔のようなときも。兎角、現代社会というのは情報であふれ返り、時間に追われたり、人間関係の不和もあったり様々なストレスがたまり、無意識のうちに怒りや悲しみという「陰」の感情に覆われてしまうこともあると思います。まるでもうだめだ、と心の叫びが聞こえるかのように閉塞感にかられることも。
でも、それもまた「人間の性であるなぁ」、と。時に歴史書等を読んでいると、時代は変われども・・・この「心」の向き合い方というのは生きていくうえでの命題であるようにも感じます。
どう自分の心と向き合い、陰に傾いた心を陽に転じていくか。 その教えには、長い歴史の中で種々様々ありますが、その中に実は「香」も一役買っています。
お香で心を整える
時は、戦国時代。時の武将たちは様々な思惑をもち領土を広げたり、同盟を組み、そして戦いへと邁進していく。 今の時代からみれば生命の危機が常にさらされている殺伐としたなか。明日は我が身とまでは言わなくても、「死」という恐れとも隣り合わせだったことでしょう。
そんな殺伐としたなかでも「心を整える」ために、香を聞いていたそうです。戦の前に、一片の沈香の香木の香りを聞き、心を落ち着かせ、整え、そして「いざ出陣!」と戦へと向かう。
当時の武将たちは、様々な香料で交ぜ合わせた薫物よりも、香木の一片の香りを好んだといわれています。香木一片の香りに、自分の生命にも照らし合わせていたのでしょう。また、ある武将は戦の前に鎧に香りを焚き染めていたという逸話も。(これは、またあらためてお伝えできればと思います)
一片の香木から聞こえてくる香りに心を傾け、そして、心を静める。そこには、ゆっくりした呼吸もついてきます。
どのような香りを聞いていたか・・・そこは想像をする世界ではありますが・・・沈香にしても、はたまた・・・伽羅の香りにしても・・・・そこから漂う芳香な香りは、幽遠な世界へと誘い、静かに心に話しかけ、心にあふれかえる不要な感情を洗い払ってくれるかのよう。
時代は移り変われども、心の向き合い方は、どの時代でも命題であります。お香が一役買ったとお伝えしましたが、何よりも一番は、肩の力を抜き、深い呼吸をするということはだれでもすぐに簡単にできます。
かぐわしい香りというのは、おのずと深い呼吸を促してくれるからこそ、理に適う方法であるのだとも思います。
もし今、悲しみや怒りなどの「陰」の感情に覆われているのであれば、ぜひお香を焚いてみてください。無機質にも感じる目の前の世界に香りが色鮮やかに彩り、そして、「はぁ~~~」と深い息をはきたくなると思います。
そうやって深い息をはくだけでも、心は静まり、陰陽のバランスが整います。
秋分の日が昼と夜の長さがほぼ同じということで、陰陽のバランスについて考えてみました。日本のお香のたしなみ方はさまざまあり、それを駆使していた先人たちに敬意を払いつつ・・・皆さまの暮らしのなかでも「お香」の香りで心彩り、人生もより彩られますように・・・。
すてきな秋分の日をお過ごしください*