常盤なれ ~如月の満月の夜に~

花鳥風月~美しい自然の移り変わり~
豊かな地球の恵みを敏感に感じ、絶妙な香りの配合を表現してきた先人たちの繊細な感性により培われてきた日本の香文化。それは、自然との共生を大切にし、様々なものを調和させ、新しいものを生み出す日本人の美意識そのもの。そんな日本人の美意識をはぐくむ「日本の美しい自然の移り変わり」を、本コラムでお届けします。

 

一雨ごとに空気が暖かさを纏い、季節の移り変わりを感じるようになってきました。

いよいよ」という意味をもつ、三月の和風月名の『弥生』。その名のとおり、いよいよ自然界の様々な命のエネルギーが地上に解き放たれる季節になりました。

 

家の近くの里山を日課で散策していると、寒さから暖かい陽気にかわってきているのが日に日に感じ、気持ちもほころびもます。そして、山の裾野を見るとあちこちで花が咲いているではないですか。

 

色とりどりの花が、まるで微笑みながら花開いているかのように、意気揚々としている姿に、こちらもほっこりとほほ笑んでしまいます。

 

故郷やどちらを見ても山笑ふ (正岡子規)

 

正岡子規の有名な一句。
病床の子規が、故郷の松山の春を想い、「春が来たなあ。今頃、故郷の松山は草木が芽吹いて、山々が明るくにこやかに笑っているだろな・・。」と心情が読まれていますが、山が“明るくにこやかに笑っている”ととらえるこの”山笑う“という季語ははまとをえていますよね

 

春は「山は笑う」という季語も、四季によって、夏は「山滴る」、秋は「山粧う」、冬は「山眠る」と表現がまた変わります。

同じ姿が続くわけではないからこそ、一期一会な花の命にふれる喜びが相重なるのかもしれません。

 

でも一方で、季節の変化を大きく影響をうけないのが「常緑樹」と呼ばれる一年中葉が緑色の樹木です。

 

真冬の寒い時期でも葉の緑色を失わないことから、永遠(常盤)なる命に象徴され、縁起のいいものとして利用されます。
その代表的な樹木の一つが「榊(さかき)」です。神社の神事などにも使われていますし、神棚にもかざられるので目にされた方も多くいらっしゃると思います。

実際に今年の冬も奈良の山で作業をしてきましたが、杉なども冬になるとさすがに寒さから葉の先が茶色くなっていましたが、榊の木だけはきれいな緑色でした。

不思議に思い聞いてみると、
寒さで葉は凍って枯れてしまうのですが、凍らないように冬にむけて葉の内部の糖分やビタミン類を増やしていくそうです。糖分やビタミン類がはいった水だとマイナスの気温でも凍りにくくなる。それは、寒さを越えた野菜や果実が甘くなるのと同じ原理だそうです。

つまり、一見平然と佇まっているようで、実は目に見えない部分でしっかりと準備、努力を重ねているといっても過言ではないのでしょうか。

 

私はたえず
喜びを求めながら生きている。

そのための苦労には、
精一杯に耐える努力を惜しまない。
(本田宗一郎)

 

 

日々の暮らしの中で”喜び”が大きなものから小さなものまであふれると、それがこのような桜の木のように”花笑い”になり、その過程のなかの苦労や努力もまた“楽しめ!”と、山や樹木や花たちは応援メッセージを送ってきてくれているのかもしれませんね*

より”笑い”あふれる春が皆さまのもとに訪れますように*
すてきな弥生の満月の夜をお楽しみください。

 

 

(2021年3月満月の夜に配信した月便りの内容を一部変更して転載しています)

 


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