仏教の伝来と香木の漂着-日本の香の歴史を巡る

【 和の香り 】
豊かな自然に囲まれて、自然と寄り添いながら暮らしてきた日本には、木々の香りに包まれながら、優雅なお香の香りで暮らしを彩る和の生活を送ってきました。本コラムでは、そんな日本の木々の香りについてや、雅なお香についてお届けします。

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日本の香の歴史を巡る

古代インドから東へと伝えられた香の文化。日本にたどり着いてから、1400年以上もの長い歴史の中で、世界に類をみない日本独自の香文化を発展させてきました。

日本の香文化の成り立ち、歴史を知ると、さらに香への理解が深まり、暮らしの生活の中でもより愛着がわいてくることでしょう。

「日本の香の歴史を辿る」と題し、数回にわたり日本の香の歴史をご案内いたします。

まずはじめに

古代インドから東へ伝えられた香りの文化は、仏教とともに日本へと渡ってきました。

伝来した当初は、仏のための祈りの香として。その後、平安時代には女性たちの美しさの演出の一つににもなり、鎌倉時代には精神統一のために用いられます。その後、香を生活の中で楽しむ生活文化も培われると同時に、「香道」をはじめ、歌や物語、あるいは季節の風情と結びつき雅な遊びとして発展するなど、世界に類をみない日本独自の香文化を発展させてきました。

立派な香文化として培われてきた日本の香の歴史を紐解いてみると、そこからあらためて日本の素晴らしさ、豊かな文化がみえてきます。

 では、早速歴史をさかのぼってみてみましょう。

 

仏教の伝来と香木の漂着

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595年 淡路島に香木が漂着

お香の原料となる「香木」が初めて日本に漂着したのは、595年であると『日本書紀』の中で伝えられています。

“推古天皇三年の夏四月に 沈水淡路嶋に漂着れり 其の大きさ一圍(ひといだき) 嶋人 沈水といふことを知らずして 薪に交てて竈に焼く 其の烟気遠く薫る  即ち異なりとして献る” 
 (「日本書紀」より抜粋)

超訳ではありますが、要約すると下記のようにうたわれています。 

“推古天皇三年(595年)4月に、淡路島にひとかかえほどもある沈水(香木)が流れついてきました。島の人々は、ただの流木だと思いかまどに薪と一緒にくべたところ、たちまちたいへんかぐわしい香りのする煙がたちのぼった。これに驚いた人々は、この木片を朝廷に献上した。”

 

沈水と呼ばれる香木

淡路島に初めて漂着したといわれるこの沈水というのは、「沈香」のことです。沈水香木と書かれるように、比重が大変思いため水の中に沈んでしまうため、この名がついたとも言われています。

沈香は、現在でもお香の原料としても大変貴重な香木であり、特に品位の高い香りがします。

今となっては天然の沈香を手にするのも困難になりつつあり大変貴重な香木のため、ひとかかえほどもするほどの大きな沈香をくべたというのは、今となっては想像するに絶するほど贅沢なことでもありますが、さぞかし香しい香りがくゆらいだに違いないでしょう。

後に記載しますが、そもそもこのような香木は日本では生育しません。そのため、当時の人々が、薪といっしょにくべたことで、大変かぐわしい香りがするということに大変驚いたというのもわかる気がします。

 

聖徳太子が木片を鑑定

島の人々により朝廷に献上されたこの木片は、当時推古天皇の摂政をしていた聖徳太子によって鑑定されます。

博識のある聖徳太子は、この木片を見るなり、これは“正真正銘の「沈水(沈香)」である”と仰られたと言われています。

 

聖徳太子と仏教

島の人々が大変驚いたこの薫る木片を、なぜ聖徳太子は木片を見るなり「沈香」であると認めることができたのか。それは、聖徳太子は既に大陸から伝わってきた仏教の普及に努めていたほど仏教に精通していたからだと考えられています。

 

香木が漂着した595年より50年ほどさかのぼる538年に大陸から日本に伝わってきた仏教。 インドでうまれた仏教は、仏像や経典とともに日本にわたってきました。 仏教では、花を飾り、燈明を灯し、香を焚いて清めるという、一連の仏教儀礼があり、この三具足にあるように仏教の教えとともに、仏教儀礼の小道具なども大陸から伝わってきました。

そのため、既に仏教を熟知していた聖徳太子は、仏前を清め、諸仏に祈願をこめる儀式としての供香の原料である香木の存在を知っていたのであろうと考えられています。

 

その後、この献上された沈水(沈香)は財宝などとともに、671年に日本最古の本格的寺院である法興寺に献上されたと、『日本書紀』に記述されています。

 

(まとめ)仏教儀礼としての香

このように、日本ではお香の原料となる香木(沈香)が淡路島に漂着したのが日本のお香の歴史の始まりとなりますが、香木よりも先に伝来していたといわれる仏教と当時の政権状況も相重なり、仏教の普及とともに、仏教の儀礼としてつかわれる「香」、即ち「祈りのための香」であり、仏前を清め、諸仏に祈願をこめる儀式である『供香』としてが、日本の香の使い方の始まりでした。

 

香の形式は、沈香や白檀などの香木を粉末にしたり刻んだものを、漢方の生薬として薬効成分も高いその他の香原料をまぜ合わせて焚いてくゆらせる使い方であり、「焼香」と呼ばれる方法です。

 

 

いかがでしたでしょうか。「「祈りのための香」」として伝来した日本の香が、この先どのような歴史をたどっていくのでしょうか。そこには、今の私たちの暮らしにも紐づくものがみえてきます。

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