花鳥風月~美しい自然の移り変わり~
豊かな地球の恵みを敏感に感じ、絶妙な香りの配合を表現してきた先人たちの繊細な感性により培われてきた日本の香文化。それは、自然との共生を大切にし、様々なものを調和させ、新しいものを生み出す日本人の美意識そのもの。そんな日本人の美意識をはぐくむ「日本の美しい自然の移り変わり」を、本コラムでお届けします。
霜がおりた
天川に着き、村の人たちと会話をしていると「今朝、ついに霜がおりたな~」と。会う人それぞれが挨拶のように口々に。
『あぁ今年もこの時期になったのか・・』としみじみしてしまいました。
天川にご縁をいただいてから通うように行き来して早いくばくの年月が経ちましたが、“霜”を新鮮に感じたときは今でも鮮明に覚えています。
朝の寒さは身に染みる
翌日、少し早起きして村の中を散策。
太陽が少しずつ山の中を照らしだし、暖かい日差しが束の間のぬくもりを感じます。
しかし、足元に目を向けると土の上は白く光り、足をふみこむたびに、“シャリ、シャリ”という音が足元から聞こえます。
肌に染み入る寒さはあるけれども、少しずつ日差しが草木をも照らしはじめると溶けていく霜のすがたにどこか寂しさも感じ寒さを一緒に耐え忍ぼうとふと思ってしまいます。
そもそも、“霜”とは霜は空気中の水蒸気が昇華して地上にできた氷の結晶である。空気中にできた氷の結晶が雪であるならば、地上の雪とても称していいのか。
いずれにしても、冬の訪れを知らせてくれます。
色づく山
こうして朝夕の冷え込みも厳しくなっていくと、木々の葉の彩りも鮮やかになり、日に日に秋が深まるのを感じます。
天川村の紅葉の名所である“みたらい渓谷”に足をのばしてみると、夏にみた青々とした山々の姿はすっかり色づき、紅葉の見ごろがはじまりかけたように垣間見えました。
(“みたらい渓谷”の紅葉について以前書いた記事はこちらです)
こうして木々の彩りの変化をみていると年の瀬が近づいてきていると感じてしまうのは気が早いのでしょうか。
時の流れは川の水のごとくとはよくいったもの。こうして山から流れ出る川の水をずっと眺めながら、
諸行無常とはこういうことなのかとしばし感じながらも季節の移ろいを体感できた喜びにひたれたときでもありました。
そして、この水のように何にも染まらずに透き通ったままでいたい・・そんな心の願いがふとまに聞こえてきたようにも。
秋の彩りを満喫し、また村のほうに戻りました。
霜月と銘を
天川から戻り、お店に今日ご来店いただいたのはアメリカからのお客様。日系三世でアメリカで生まれ育ったもののやはり日本が大好き!とのことで、お仕事も引退した今、一年に一度は日本に戻ってきて日本の各地を旅しているそうです。
そして、作られた香りに日本語で銘をいれたいとのことで何かいい言葉はないかと問われ、いろいろと香りの想いやイメージなどを伺いながら、最終的には「霜月ノ香」と銘じることに。
シンプルだけれども、“初霜の情景”や霜がおりる空気感や、そしてこの月ならではの季節の変化なども体感していたらかこそ、その方が11月の日本の香りと銘をうちたいという思いに心から共感できるものがありました。
自然の中に身をおくことで、いろいろ感じうる世界がまた大きく変わりますね。
その方はだいぶご高齢であられなあがらも、少しでもご自分のルーツがある日本を感じたいという思いで多いときは1年に2回も日本に来るようにしているそうですが、わざわざ飛行機に乗らずとも日本に住めているというのはとてもラッキーなこと、というその方の笑顔になんか微笑ましくなってしまいました。