花鳥風月
豊かな地球の恵みを敏感に感じ、絶妙な香りの配合を表現してきた先人たちの繊細な感性により培われてきた日本の香文化。それは、自然との共生を大切にし、様々なものを調和させ、新しいものを生み出す日本人の美意識そのもの。そんな日本人の美意識をはぐくむ「日本の美しい自然の移り変わり」を、本コラムでお届けします。
寒冷の季節もあとわずか、春の訪れ
立春が過ぎても残る寒さ。そんな寒い季節の中で、梅の花が咲き始めると、不思議と心がほっこり温かくなります。
『春がきた!!これで長かった寒い季節も終わりだ。(ほっ)』
家の道中にある梅の木。毎日見ているだけに、今まで枝だけで少し侘しそうに見えていたところに小さな蕾がつき、だんだんと膨れ上がり、きれいに咲いている梅の花。
長かった冬に終わりを告げ、春を呼び込んでくれているかのようにも感じます。
ふくよかな香り
梅が香にのつと日の出る山路哉
(松尾芭蕉)
梅の香が匂う山路には、何の前触れもなく朝日がひょっこりと昇ってくる、そんな情景をうたっていますが、梅の香が匂う山路とはなんとも風情があり味わってみたいものです。
梅は寒ければ寒いほど、強い香りを放つといわれています。
立春が過ぎても、まだ寒さは残っている今日この頃。この寒さが人間の体を冷え込ませ、動くのが幾分か億劫にさせたりしますが、梅の木は秋終り頃に葉をおとし、枝と幹だけになり寒む寒むしくも見えますが、しっかりと大地に根を張りながら、枝と幹は寒い中でも大気を吸収して、蕾を膨らませていき、花ひらく。
梅の花びらから放つ香りは、この寒さの中で耐え抜きぬきながら熟成した香りだからふくよかな甘さが放たれるのでしょうか。
はたまた、冬の寒さの中でも枝と幹で大きく呼吸しながら自然の季節の変わり目と同調していただけに、春の訪れをいち早くお知らせしてくれているのかもしれません。