万葉集に学び「令和」の香りを聞く~卯月の満月~

花鳥風月~美しい自然の移り変わり~
豊かな地球の恵みを敏感に感じ、絶妙な香りの配合を表現してきた先人たちの繊細な感性により培われてきた日本の香文化。それは、自然との共生を大切にし、様々なものを調和させ、新しいものを生み出す日本人の美意識そのもの。そんな日本人の美意識をはぐくむ「日本の美しい自然の移り変わり」を、本コラムでお届けします。

新しい時代「令和」にむけて

新しい元号が正式に発表されたから数週間が経ち、そして、いよいよ残り約2週間後には新しい元号「令和」のもと、新しい時代が始まりますね。

 

奇しくも発表されたのは東京でも桜が満開になる頃。
寒く暗い冬の陰から明るい暖かい陽の春。そんな季節に発表されることも重なって、より新しい“時代”にむけての期待・希望を花のつぼみの膨らみとともに大きくなっているのではないでしょうか。

 

万葉集から

今回の元号で注目されたのは誰もが予想だにしなかった「令和」の出展元が初めて日本の国書「万葉集」にあったと思います。

日本人の精神性を学びたいと思い始めたときに師から言われたのは「万葉集をまずは読みなさい」と言われたのが今でも忘れられず、時折読んでいたこの歌集が出典元になるということには驚きを隠せませんでした。

 

さて、この「令和」の出典の元になった「万葉集 第五」の序文の一節。

時に、初春の令月にして、気淑く(きよく)風和らぐ。
梅は鏡前の粉を披き、蘭は珮後の香を薫らす

(現代語訳:折しも、初春の佳き月で、気は清く澄みわたり風はやわらかにそよいでいる。梅は美しい人が鏡の前で白粉をつけているかのように咲いているし、蘭は貴人の飾り袋の香のように匂っている。 現代語訳引用元:伊藤博訳)

 

 

蘭は珮後の香を薫らす

期せずして“香り”が描写されていることもあり、この描かれている世界を心に思いえがき身をよりそっていました。

 

蘭は珮後の香を薫らす(蘭は貴人の飾り袋の香のように匂っている)」

 

蘭と読むと胡蝶蘭のほうを想像しますが、おそらくこちらは漢詩のなかでもちいられている秋の七草のひとつで茎の先端に直径5mmほどの白く小さな花を咲かせる「藤袴(フジバカマ)」の花のことだと思ったのですが、春に咲く花ではないのでおかしいなと思ったら、“蘭亭序(らんていじょ)”を意味して、総じて宴のことをさしているのではないかという説も。

 

参考までに、「珮(はい)」は奈良時代に礼服につけた古代の装飾品だそうです。

(これは以前に京都で日本の装いの歴史の流れの展示をみてきた際の写真です。一番左が奈良時代の装いだそうです。)

いずれにしても、この一文から“飾り袋”、今でいう香袋が存在していたということがお歌からもあらためてわかり、原料などを想像すると袋から薫る香りは強くかおらせるものではないと想像すると、いかにどれだけ清々しい風がなびく心地よい風土だったのかと心躍ります。

 

聞こえてくる世界

この序文は太宰府に派遣されていた大伴旅人の家で宴会が開かれ、当時の九州の集まった32人の役人がが梅の花について詠まれた時の状況が説明されたものだということ。

 

“夕方の山洞(やまほら)には霧がわき起こり、鳥は霞の帳(とばり)に閉じ込められながら林に飛び交う。庭には春うまれた蝶がひらひら舞い、空には秋来た鷹が帰っていく。”という描写もあります。

 

清く澄みわたる風がそよぎ梅の香りもひろがり“春”を寿ぐいっぽうで、冬から春への繊細な季節の移ろいを感じるこの情景からは、まさに“新しい時代”への変遷と重なって感じえてなりません。

 

 

「Beautiful Harmony」へ

さて、今宵は卯月の満月の夜。
平成最後の満月の夜と、なんでも“平成最後”とつけたくなってしまいますが・・・
残り12日で新しい元号「令和」がはじまります。

 

今宵は香を焚きながら、“平成”を振り返り、そして新しい時代「令和」への展望を思い描いてみてはいかがでしょうか。

外務省は「令和」を「Beautiful Harmony」を英訳にすると決定をだしましたが、日本の薫物の世界のようにそれぞれの個性を活かしつつ和合しあう平和な香りがひろがる時代になってほしいと切に願います。

 

梅の香りと日本人の気質

序文にも詠まれている“梅”。

「梅が香を 桜の花に匂はせて 柳の枝に 咲かせてしがな (中原到時)」

香りは梅、花は桜、佇まいや柳というのが平安貴族の理想だったといわれますが、金木犀や沈丁花のように際立つ香りではなく、やわらかでほのかに香る梅の香日本人の慎ましやかで穏やかな日本人の気質にも相重なります。

 

一人ひとりが日々の暮らしのなかで平らかに、安らかな気持でいることで、心から匂い立つ香りも芳醇で高潔な香りをはなち、麗しき香りに包まれた平和な世界になるのではないでしょうか。

 

平成最後の卯月の満月の夜を香を焚きながらどうぞお楽しみください。

 

 

 

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