一夜賢者の偈 ~睦月の満月の夜に~

花鳥風月~美しい自然の移り変わり~
豊かな地球の恵みを敏感に感じ、絶妙な香りの配合を表現してきた先人たちの繊細な感性により培われてきた日本の香文化。それは、自然との共生を大切にし、様々なものを調和させ、新しいものを生み出す日本人の美意識そのもの。そんな日本人の美意識をはぐくむ「日本の美しい自然の移り変わり」を、本コラムでお届けします。

 

大寒に入り寒さが身にしみる今日この頃。昨日は、東京でも雪が少し降りました。無機質なコンクリートジャングルと揶揄される都会の景色も、真っ白に染まるとどこかあどけなさを感じ少しほっこりしてしまいました。

 

とはいえども、体震わせる寒さに、日照時間も短かったり、木々の葉もすべて枯れおちたり見える景色など、冬はなんとも悲観的な情緒に陥りやすいです。

それは、目に見える「動」がないからなのでしょうか。雪が“しんしん”と降るといいますが、その意味も“音もなくひっそりとした静かなさま”とあるように、冬はどうしても「静」の面が際立ちます。

『あぁ、なんか寂しいな』

寒さが苦手という意識がでてしまい、時に心が蝕まれることもあるのですが、この荒涼たる冬景色にこそ”躍動感ある生命力があるのだととかれた言葉にふと心揺れ動きます。

 

花をのみ 待つらむ人に 山里の
雪間の草の 春を見せばや  (千利休)

荒涼たる「寂」しい冬、山里の枯れかじけて寒い白一色の雪の下には、草の芽が春の芽の命を暖めていると、この凍てつく冬の静かな景色に相反するように生命の静かな動きうたっています。

 

さて、今宵は睦月の満月。香を焚きながら、心静かに”今できること”を書き出してみてはいかがでしょうか。

この歌は侘び寂びの境地の真髄ともいわれますが、同時に、山中の自然の木々たちは、こうして“寒い”からだとか”枯れ落ちた”という過去にも囚われず“今を”生きているという生命力にも感じ、何かそっと背中を押してくれているように感じます。

「寒さなんてへっちゃらだ!」「春になったら勢いよく芽吹いてやるんだ!」と言っているのでしょうか、それとも「今を楽しんでいるだけです」とたんたんと答えてくれるのか。その心の答えはわかりませんが、ただ今という冬をどう過ごすかによって春にどう芽ぶくのかはその姿からは教えてくれます。

 

過ぎ去れることを追うことなかれ。
いまだ来たらざることを念(おも)うことなかれ。

過去、そはすでに捨てられたり。
未来、そはいまだ到らざるなり。

されば、ただ現在するところのものを、
そのところにおいてよく観察すべし。

揺らぐことなく、動ずることなく、
見きわめ、ただ実践すべし。

ただ今日まさにすべきことを熱心になせ。
たれか明日死のあることを知らんや。

まことに、かの死の大軍と、
遭わずというは、あることなし。

よくかくのごとく見きわめたるものは、
心をこめ、昼夜おこたることなく実践せよ。

かくのごときを、一夜賢者といい、
また、心しずまれる者とはいうなり

(増谷文雄訳『中部経典』より)

これは、古い仏典にあるお釈迦様の「一夜賢者の偈(いちやけんじゃげ)」という詩です。

以前終息も見えず、不安な日々が続いてるなか「あのとき、ああすればよかった。そうすればこんなことにはならなかった」と過去を悔やんだり、「この先どうなるんだろう」と将来に不安を抱くこともあるのでは。

それでも、いつだって確かなことは、「今ここ」にしかないのかもしれません。

その「今ここ」をしっかりと丁寧に過ごすことが心の安心にもつながってくるのかもしれません。そう、”自然”の姿もまた教えてくれているようにも思いました。

 

だって、もう春もそこまできていますしね♪

すてきな満月の夜をお楽しみください*

 

 

(2021年1月満月の夜に配信した月便りの内容を一部変更して転載しています)

 


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