今日は店頭でお客様とのお話のなかで、お香についていろいろとご質問などをうけ、会話が弾み楽しいときを過ごさせていただきました。 お香をどのように使うか・・・というところから、昔の人はどう使っていたの・・?という質問などなど。
昔の方・・・もう1000年以上も前の人も同じように香を楽しんでいた・・・それはどのような世界だっったのでしょうか・・・。 そこを紐解いてみると、自然と現代に生きる私たちにも通じるものがあり、時代をこえて共感できるものを感じます。
日本の素晴らしい香の風習
日本での香の歴史は長く、伝来当初は邪気をはらうためにまた祈りの香として仏教とともに。その後、平安時代には女性たちの美しさの演出の一つににもなり、鎌倉時代には精神統一のために用いられたりと、私たち日本人にとって馴染み深いものです。
それは、我々の祖先が「香には十の徳がある」と学び得たからでしょう。香りで心を落ち着かせたり、お部屋を好きな香りで快適な空間にしたりと、日々の暮らしの中に様々な形で取り入れ、香りを愛でる生活は現在においても欠かせない素晴らしい日本の風習です。
清少納言も香で優雅な時間を
歴史をつうじて実際に同じように香りを楽しんでいたというのが、ある文献が伝えてくれています。
『枕草子』より
「心ときめきするもの。雀の子飼。ちごあそばする所のまえわたる。よき薫物たきてひとり伏したる。唐鏡のすこしくらき見たる。よき男の車とどめて案内し問はせたる。頭洗い化粧して、香ばしう染みたる衣など着たる。 ことに見る人なきところにても、心のうちはいとをかし。待つ人などある夜、雨の音、風の吹きゆるがすも、ふと驚かる。 」(『枕草子』より一部抜粋)
これは、香が貴族の暮らしの中で不可欠となっていた平安時代に宮廷で宮仕えをしていた清少納言が華やかな宮廷生活を随筆として書き留めた『枕草子』の中の一節です。
この一節には清少納言が「こころときめきするもの」というもの尽くしを表しており、一人の女性が当時どのようなことに心をときめきさせてたのかがわかります。
『枕草子』の現代語
『心をときめかすもの。 雀の子を飼うこと。赤ん坊を遊ばせている所の前を通る。高級な薫物を焚いて、一人で横になっている時。中国製の鏡の少し暗くなっているところを覗き込んだ時。高貴そうな男が、家の前に車を止めて、使いの者に何かを聞かせにやった時。 髪を洗って化粧をして、しっかりと良い香りが焚き染められてついた着物を着た時。その時には特別に見ている人がいない所でも、心がとても浮き立って楽しくなる。約束した男を待っている夜、雨の音や風が建物を揺らがすような音さえも、もう男が来たのだろうかと思って(驚き嬉しくて)胸がドキドキするものである。 』
心をときめかすもの
心をときめかすものとして、『高級な薫物を焚いて、一人で横になっている時。』と、『髪を洗って化粧をして、しっかりと良い香りが焚き染められてついた着物を着た時。』と書かれていますが、その姿が目に浮かびます。 きっと清少納言も宮仕えの仕事を終えて、良い香りがする好きな薫物を焚きながら一人横になりもの思いにひたる・・・。
また、お風呂に入りきれいさっぱりした後、良い香りを焚き染めた着物を着て、まるでさぁ今日も頑張るぞ!と意気揚々と家を出るかのよう。
悠久の時を越えて
時代は変われども人間として共感できるものを悠久の時を越えて感じられるので感慨深いです。
香しい香は、心を癒やし、身も心もそして空間をも清らかにしていくれ、静寂なひと時を楽しめる・・・それを味わっていたように、現代に生きる私たちも同じように香を味わい、そして楽しんでいきたいものです。